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無法島の一件 13 守護

last update Last Updated: 2025-07-14 21:53:57

「離してください」

 できるだけ低い声でゆっくりと言った。

「黙っててやるからさ、こっちに来いよ。明日になったら一緒にヌーンブリッジに帰ろうや」

「ふーん。よく見ると、可愛いなぁ。俺たちの部屋に来なよ」

かなりまずいわ。

「結構です!」

後ろからも小さめの男に腕を掴まれる。

「いい土産ができそうだぜ。最近パッとしないからな」

「やめてよ。人を呼ぶわ」

「誰が来るってぇ?」

「無法島には保安部隊はいないぜぇ……」

「ノーマンの部下は今夜はいねぇぞ。外出禁止って広場でお達しが出ただろ? 人が死んでんのに……規律を守らないと、こーなるんだよぉ」

なに自分たちに都合がいいこと言ってんのよっ……ギラギラした目が間近に迫ってきて、顔を掴まれる。

やめて……。

そのとき、ガラスが割れる音が響き、目の前に大きな獣が現れた。

真っ赤な光る目ー

あのときの獣!

これ以上ないピンチの上に、獣に食い殺されるなんて運が悪すぎる。私ってそんなに悪いことした?

そりゃ、外に出た私がいけないんだけども!

「なっ……野犬か?」

「違う……こいつ、狼だ」

男二人が私を盾にする。卑劣極まりないんだけど! ……て言うか、これ狼? こんなに大きいの?

「ちょっ、……卑怯者!」

「お前が食われろ!」

「男のくせに、女を盾にするの?」

私も負けじと言い返す。こんな所で死にたくない!

「離して……バラバラに逃げましょう!」

提案したが、二人とも離してくれない。

「う、うるせえ!」

唸り声を上げ、狼は大きな口を開けて私たちに飛びかかる。

ひええええぇ!

狼はなぜか私を飛び越え、大柄の男の腕に噛みついた。男は叫んで、足で狼を蹴り飛ばす。

狼は一旦離れ距離を取ると、唸りながら私たちを赤い目で睨んでくる。

ああ……今まで生きてきて、今が一番ピンチだってば!アレックスのことが頭をよぎる。

もう会えないかもしれない……。

狼はもう一人の小柄な男の足に噛みついた。男は足を振り解こうとするけど、狼は離れない。

「い、痛えー! た、た助けてくれ!」

「くそっ!」

大柄の男が怖がりながらも、また狼に蹴りを入れた。

狼が足を離した瞬間、男二人はなにか叫びながら逃げて行った。

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